「丁」と「半」が醸し出す世界

 最初にお断りしておかなければなりませんのは、私は賭け事をやらないのでそれについては疎いのであります。

 と、前置きしますのは、それにもかかわらず本日は「丁」「半」を例にあげて、少し世界の二面性を考察してみようかと大胆に思っているからであります。

 よく任侠映画で中盆さんが「よござんすね」と口上後、壺振りさんがサイコロを二つ、壺に入れてシャカシャカ振って畳に伏せ、数字の奇数偶数を当てるやつです。

 『丁」は偶数で「組として揃っている」、「半」は奇数で「半分、端数」という意味のようです。

 

 稽古で思い当たるのは、男女の性差です。

気の方向性は男女で逆だったり、男女の片手ずつ揃ってこそ、身体感覚が動き出したり、それは「丁」に行き着くのであります。そして、性差がない稽古では割り切れない「半」としての、もう一つの世界を炙り出してまいります。

 私の時代は男子校や女子校が多かったです。男子校の友人に聞くとどうもそれも悪くないようで、女子校も然りのようでございます。

 男女共学しか知らない私としては、もしもう一度人生を送れるのであれば、男子校も悪くはないかもなと思ってしまいます。

 これはこのお話からいえば「半」の世界かと思います。

 

 現在の歌舞伎は男が女型をやりますし、宝塚は男性を女性が演じています。つまり、生物学的な性差というものとは別に、カタとしての性差も存在するようで、これも面白いものです。男性の左腕が女性としてのカタに入ってしまえば、両腕で「丁」になるのか、とても興味深いことですね。

 

 それでは性差とは違った視点から見ることにいたしましょう。

 自己と他者を組みと考えてみるのはいかがでしょう。自己だけの世界、他者だけの世界、つまり各々「半」の世界。足しこんだ世界は「丁」です。これをもう少し深入りしてご説明申し上げれば、世界を見つめる一点とその一点を包含する世界側の一点と申しましょうか。

 

 いま私は、お気に入りの喫茶店におります。日曜日はどこ行っても混んでいるのですが、ここはいつもゆっくりできるのです。しかも天井が高い。私好み。

 目の前にあるアイスカフェオレはミルクの部分とコーヒーの部分がきれいに分かれております。で、飲む段階にかき混ぜてしまえば、その分かれ目はなくなってしまいます。

 きれいに分離されている「半」二つが「丁」になります。

 なんとなく、私はかき混ぜる前に躊躇する心を感じます。つまり何かが失われていくような感覚。素材を混ぜ合わすのには相当な勇気がいるものです。

 

 もう一つ例を挙げてみますね。私の稽古場では古の民の呼吸法を伝授いたします。すると息をしている人の輪郭が、だんだんくっきりしてくるのです。前々からそれが不思議でした。最近思っているのは、その方の周りの空気が身体全体を使った呼吸によりかき混ぜられて、偏在した空気が均等化しているのではないかということです。

 身近な例では、お風呂をかき混ぜても同じことが起こりますね。

 

 つまり混ざっているのです。

 「う〜ん」と私は考えます。

 混ざればいいのか、それって「丁」ですよね。

 でも割り切れない「半」があってこその「丁」です。

 

 お釈迦さまがお生まれになった時に、七歩歩いて右手で天を、左手で地を指して「天上天下唯我独尊」とおっしゃったそうです。これは私的には「半」なのです。

 聖人も俗社会に混ざってしまえば、その世界もろとも「丁」ですね。

 でもきっとお釈迦さまは混ぜない「半」として、混ぜない世界の「半」と組み、「丁」という宇宙にいらっしゃるのではないかとも思えてしまいます。

 

 と色々と述べてきましたが、私たちは壺の中でかき混ぜられて、いよいよ「よござんすね」と張子の前に出てきた時には覚悟を決めなければならないのです。サイコロの目は溶け合わないし、結局私たちはどっちかに賭けるしかないのです。

 で、私たちには「丁」か「半」の二つの身体感覚があって、決して選べないのかもしれませんが、それを観察して備えながら生きていくことはできるのではないでしょうか。

 

 忖度しすぎて疲れ切ってしまったあなたにもいつかは必ず「半」が出るでしょう。

 世事から離れて、ますますこもっていくあなたもいつか「丁」が出てしまうのです。

 

 人生は「一か八か(いちかばちか)」の反転し続ける回転世界なのです。

 

 おまけ1:「丁」の上部分は「一」、「半」の上部分は「ハ」に見え「丁か半か」の隠語として使われたという説があります。

 おまけ2:サイコロが二つなのはイカサマを防ぐ意味があるようです。人生はイカサマと隣り合わせ、鏡に映った自分は混ざった「丁」が誘ったイカサマかも(カモ)しれません。カモは自分がカモと思わないからこそ胸を張っているのです。「半」であるあなたも失わないようにお気をつけ下さい。

 

2026/7/26 Sosuke.Imaeda